モノづくりへの挑戦を続け、唯一無二の会社に
遠隔操作によって空を自由に飛び回ることができる無人航空機「ドローン」。「空の産業革命」とも言われ、空撮・宅配・農薬散布など産業面での利用のほか、災害時の活用を期待する声がある。「株式会社三矢研究所」(川崎市麻生区上麻生)は自社で開発したドローンで、地域防災のために積極的な支援を行っている。
2017年から麻生警察署と災害時協定を結び、今年2月には訓練用のドローン本体を同署に寄贈した。ドローンの所有は、県内の警察署で初の試みとなる。古澤利夫代表取締役は「麻生区は災害が少ない地域のように感じますが、ハザードマップを見ると土砂災害警戒区域に指定されている場所がたくさんあります。災害発生時には、被害状況を確認する場面などでドローンがきっと役立ちます」と力を込めて話す。
モノづくりの最先端を行き地域貢献にも積極的な同社は、ドローンの製作だけでなくあらゆる電子機器の設計や、開発から製造、納品までを請け負う。中でも警備用電子機器の開発は1966年の創立以来同社の主力事業で、現在も売り上げの8~9割を占める。日本の警備保障の黎明期であった時代に、全国で建設された銀行、博物館、コンサートホールなど、名だたる建物のセキュリティに同社の機器が採用された。古澤代表は「安全の維持に関わる仕事だけに、常に完璧な技術が要求されます。大量生産では実現できない特別な仕様が求められる高度な分野です」と常に気を引き締める。また最近では高速道路に関する仕事の依頼も多く、サービスエリアのトイレの空き状況を知らせる表示や、道路の冠水センサー、トンネル内にある非常用照明など多種多様な機器の開発にあたっている。従業員はパートを含め20人の少数精鋭だが、これまで製品化した機器は3,000種を優に超えている。
顧客からのリクエストにより与えられた仕事に誠心誠意取り組む一方で、古澤代表が大切にしているのは仕事を楽しむこと。「自分が好きで、楽しいと思えることでないと前に進めない。うわべだけで仕事をしていても絶対にばれてしまう」。そんな古澤代表は、学生時代から趣味としていた「車好き」の経験を生かし、関連会社のエフ・プランニングで、ラジコン模型用工具の販売を始めた。その後この事業を、ガソリンを搭載した実車の5分の1の大きさのラジコンカー「スケールスポーツ」の製作へと展開。材料を吟味するところから始め、一つひとつ型を起こして作り上げ、3年がかりで完成させた。
スケールスポーツは販売と同時に大きな話題を呼び、2010年には「第6回かわさきものづくりブランド」の認定を受けた。現在は組み立て教室やレースの開催を通して、モノづくりの楽しさや「けがのないモータースポーツ」の良さを伝えている。「何遊んでいるんだと冗談で言われたこともありますが、ここで培った技術は他の事業にも大きく貢献しています」。最高時速60キロに達するスケールスポーツの頑丈なタイヤを製作したノウハウは、現在開発中の流通企業向け搬送用台車にも生かされている。
代表の父である一浩氏が創業の際、社名に「研究所」と付けた時から同社が貫く思いは揺るぎない。それは「どの時代にあっても必要とされるものを生み出すことができる、モノづくりの会社でありたいということ」と古澤代表は話す。長年の経験とあらゆる製品の製造で培った高い技術力を生かし、現在は「動く警備機器」の開発に力を入れている。そして「三矢なら、三矢しか」を意味する「ならしか」の会社となるため、「社員たちに楽しく仕事をしてもらい、世の中に役立ついいものをつくりたい」というのが今の目標だ。同社はこれからも、新たな時代を切り開く製品を生み出し続けてくれるに違いない。
《代表プロフィール》
古澤 利夫 (ふるさわ としお)
1956年9月28日生まれ。東京都出身。1960年より川崎市麻生区在住。大学卒業後、株式会社三矢研究所に入社。以後一貫して警備用電子機器の開発を手掛ける。1988年に取締役、1999年に代表取締役に就任。学生時代にはスロットカー(コースの路面に刻まれた溝から給電して走行する自動車模型)の日本チャンピオンになった経験も。スケールスポーツではレースに参加することもあり、専用コースの建設を目指している。