自然を身近に感じる豊かなライフスタイルを提案
「人と植物がもっと近くなる機会を増やし、働く人や街の人がほっとする空間をつくりたい」と語る、株式会社グリーニアンの岡田陽介代表取締役社長。同社は2016年7月の設立から4年間で、300件余りの壁面緑化事業計画に携わり、売り上げを20倍に伸ばすなど急成長を遂げている。
その成長の背景には「壁面緑化」への期待がある。一定基準の建物を建設する場合、自治体によって敷地面積に対する緑化率が定められている。しかし、都市部では十分な土地を確保することが難しいため、新たな土地を必要としない壁面緑化が有効な手段となっている。また、景観を良くしたり、環境問題への対策として利用されたりすることも多い。岡田社長は「2005年に開催された愛知万博により壁面緑化の国内での知名度が高まり、需要は増えています。その一方で、新規参入しても経験の少なさや植物を扱う難しさから、撤退していく会社が多いのが実情です」と明かす。そこで業界の発展のためにも、会社員時代から多数の壁面緑化事業計画に携わった経験を生かしたいと起業を決意。2016年に「かわさき起業家オーディション」で、かわさき起業家賞、日本起業家協会賞、八千代銀行(現・きらぼし銀行)賞などを受賞したことをきっかけに、会社を設立した。
同社はこれまで、渋谷のランドマーク「渋谷スクランブルスクエア」をはじめ、世界を代表する建築家クリストフ・インゲンホーフェン氏がデザインを手掛けた「虎ノ門ヒルズビジネスタワー」、東京都多摩市の「長谷工テクニカルセンター」、横浜市の新市庁舎など国内を代表する建物の建設に関わってきた。社員ゼロからのスタートだったが、現在は10人が従事。15年後の完成を目指す事業など大規模な仕事に専門性を生かし取り組んでいる。「壁面緑化には雨水の処理や台風に強い構造など建築の知識だけでなく、植物が育ちやすい環境づくりなど造園の知識が必要です。弊社には、この両方の知識で検討し、計画から金物の製作、かん水や排水の設備工事まで、建物に合わせてワンストップで行うことができるノウハウがあります」と強みを話す。
また、岡田社長は壁面緑化の高品質化を重要視し、深谷市の契約農場で1年以上かけて育てた苗を使用する。苗は短期間でコストをかけずに育てた場合でも、見た目に大きな違いはないが、四季を経験させることで厳しい環境下でも枯れにくくなるという。さらに、3年前からは日本大学生物環境学部の研究室と共同研究を進めている。植栽する植物の葉の厚み、蒸散量などを調べ、生育期間による違いを数値化し分析している。「業界の評判を落とさないためにも、より枯れにくい壁面緑化を実現したいです」と力を尽くす。
同社は庭の概念を変えようと独自に開発した、移動が可能な庭「コマニワ」も販売している。コマニワはプランタであらかじめ生育させた植物を配置してつくるため、完成まで数年かかるような庭を最初から手に入れることができる。岡田社長は「運搬や設置も容易で、マンションのバルコニー、ショールームなどでもすぐに庭をつくることができます。洋服を選ぶときのように、好きなデザインの庭を気軽に楽しんでもらえれば」とメリットを話す。すでに羽田空港の国際線ターミナルに採用されており、「新しい庭」の発展が期待される。
自然豊かな新百合ヶ丘で暮らしてきたことが、「人と植物の共存」を目指す同社の礎となっているという岡田社長。「植物に囲まれていると心が安らぐのは、植物により人は生かされているからだと思います。人が植物のあった場所に建物をつくった結果、植物や自然が破壊されてきました。これを本来の状態に戻し、植物が豊かに育つことができる場所を増やしていきたいです」
《プロフィール》
岡田 陽介(おかだ ようすけ)
1976年6月生まれ、川崎市立柿生中学校出身。大学卒業後、建材レンタル会社に就職。社内で新規に立ち上げられた壁面緑化部門で、10年余り事業計画や設計に従事した。2016年7月に株式会社グリーニアンを創業し、代表取締役社長に就任。会社員時代から携わった壁面緑化案件は1,200件を超える。一級建築士、一級造園施工管理技士。屋上緑化した事務所兼自宅で家族と過ごすのが癒しの時。趣味は40歳になってから始めたサーフィン。