測ることで環境を保全し、未来を創造する企業でありたい
谷や尾根の凹凸が赤色の明暗によって表現され、平面なのにまるで立体のように見える不思議な地図。「赤色立体地図」は、森林に覆われた地形まで表すことができ、その土地の成り立ちを知ることもできる。NHKの人気番組「ブラタモリ」で使用され注目を集めているほか、防災に活用している自治体もある。
この画期的な地図を開発したのは、新百合ヶ丘駅北口すぐの新百合21ビルにある「アジア航測株式会社」。同社は、空間情報をベースとして、防災、環境、社会基盤整備のコンサルティング業務を行う日本のトップランナーだ。航空レーザ計測や航空写真から得られるデータを駆使した土石流や火山噴火、地震などの自然災害に備えるための防災システムの開発、生物多様性の保全や土壌汚染に関わる調査をはじめ、道路、鉄道の計画から設計までを行うなど業務は多岐にわたる。
「『測り尽くす』のが、我が社のモットー」と話すのは、小川紀一朗代表取締役社長。同社は昭和29年「戦争によって荒廃した国土を復興するためには航空測量が必要不可欠」との信念を持った、若い技術者の熱意によって創業された。この思いは脈々と受け継がれ、小川社長は「『測る』ことによって環境を保全し、災害後の復興を助け、未来を創造する企業でありたい」と理念を掲げる。そのため、これまで空間情報を得るための技術を磨く一方で、災害への対応も積極的に行ってきた。国内で地震や豪雨などが発生すると、天候にもよるが、即座に東京都調布市や大阪府八尾市の飛行場から自社の航空機を飛ばし、航空写真撮影やレーザ計測を行う。得られたデータは、その日のうちにウェブサイト上で公開し、国や関係する自治体などへ提供している。「2次被害を防ぐためには、素早い対応が何より大事。社員たちは急ピッチで、データの判読をしてくれる」と、会社全体に社会貢献への思いが根づいている。
新百合ヶ丘へは2003年に厚木市より移転。研究部門を中心に、全体の約半分にあたる500人が勤務している。「交通の便がよいのが何よりの利点。都心へ行くときは直通の電車があり、調布飛行場へも車で30分。通勤にも便利ですね」と小川社長。また、環境アセスメント士でもある、松沢孝晋・経営本部CSR推進室長からは「土地が凸凹しているのがいい。水が染み出す場所があるので緑が多く、昆虫や鳥も多い。心が安らぐ場所」という専門家ならではの声も。そんな新百合ヶ丘ならではの豊かな自然を守ろうと、同社は地域の環境保全活動にも取り組んでいる。小川社長自ら、新百合山手公園管理運営協議会のメンバーとなり、公園や緑地の草刈りや清掃活動に参加。「草を刈ったり、木を切ったりすることが元々好きなんです」と話す温かな人柄は、同社の魅力に通じる。
また区内で、小中学校、市民向けの講座を開催。地形から見る麻生区の変遷や多摩丘陵の成り立ち、自然環境について話すことで、地域住民らと関わりを深め、防災の大切さを訴えている。講座を担当する松沢室長は「ある市民講座で、『こんなすてきな会社が新百合ヶ丘にあるのを知ってうれしくなった』と言われたことが忘れられません」と話す。すてきな会社と言ってくれる地域の人たちへの感謝の意を込めて、依頼があればどこへでも出かけ、社内の専門家たちが持っている知識や技術を伝えていきたいという。「最先端の技術を求め、活躍の場を世界に広げることはもちろん大切ですが、常に足元を見つめ、地域の中でこそ具体的に何ができるのかを考えていきたい」と小川社長。「測る」ことを通して、安全で、人も生き物も住みやすい豊かな場所をつくるため、新百合ヶ丘から未来の空を目指し羽ばたき続ける。
《社長プロフィール》
小川 紀一朗(おがわ きいちろう)
1956年10月20日生まれ。北海道大学大学院農学研究科修士課程卒。農学博士。
1982年にアジア航測株式会社に入社。以後、一貫して砂防調査・計画分野を中心に、流砂系における土砂動態現象の解析業務に携わる。2011年12月に代表取締役社長に就任。現在、北海道大学農学部非常勤講師も務める。神奈川県出身。趣味はウォーキングと山歩き。