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概要

しんゆり人 NO.004 2019 AUTUMN

今、撮るべき映画を撮る「自分の内側にあるものを吐き出して、作品を生み出すのが楽しい」自主長編映画『チチを撮りに』(2012年)で国内外14の賞に輝いた。「『チチを撮りに』は、スタッフたちがこぞって家族を連れて見に来た作品。『家族に見せたい映画を撮っているかどうか』は大事な基準。作り手が家族に見せたい、面白いと思えるような映画でなければ、誰の心にも響きません」。自分たちは本当に面白いものを撮っていると思えた時、スタッフ一人ひとりが最高の力を発揮して、これ以上ない作品が出来上がる。その状況を作り出すのが監督の仕事だと、中野監督は語る。 最新作『長いお別れ』(2019年)は、認知症を患い、ゆっくり記憶を失っていく父と家族が過ごした7年 映画人生の原点とも言える3年間を過ごした新百合ヶ丘へは、現在も買い物や映画鑑賞によく訪れるという。「新百合ヶ丘は家族のまちという印象。『長いお別れ』は原作も東京の郊外というイメージだったし、自分が書くならこの地域を入れようと思いました。ちょっとだけ日本映画大学を出したシーンもあります」と、新百合ヶ丘で見るのが一番楽しい映画になったことを、うれしそうに話す。 新百合ヶ丘のまちと縁の深い中野監督だが、その活躍の場は国内にとどまらず世界へと広がり、各地の映画祭に参加してきた。KAWASAKIしんゆり映画祭にも、2017年に中野監督の特集が組まれた際にゲストと地域の人が育てる映画祭にして参加している。「これまで多くの映画祭を見てきて思うのは、映画祭は地域の人が育てるものだということ。地域の人が楽しんでいるという雰囲気が、映画祭を盛り上げていくんだと思います」。いい映画祭は、ただ映画を上映するだけでなく、来る人に喜んでもらおうと作品選びにもこだわり、1本1本を大切にしていることが伝わってきて、ホスピタリティが素晴らしい。だから地域から多くの来場客が訪れ、みんなで一緒に映画を楽しんでいる雰囲気が生まれ、作り手たちも呼ばれたらまた行きたくなる。そういういいサイクルができているのだという。「KAWASAKIしんゆり映画祭にも、地域の人たちが楽しんでいる雰囲気がある。これからもっともっと育つ可能性があると期待しています」日本映画大学新百合ヶ丘校舎に飾られている、中野量太監督のサイン入りポスター。ポスター右下に貼られた紙には、この作品の制作に関わった日本映画学校時代の同期や後輩たちの名前が書かれている。間の物語。原作は直木賞作家の中島京子氏が、認知症の父と暮らした日々の実体験を元に書いた同名小説だが、その内容はただ認知症の辛さを綴ったものではない。「認知症は家族が大変で苦しい思いをするということは、もうみんなが知っていること。でも原作を読んだら、認知症のそうではない部分が、笑いを交えて書かれていて、とても新鮮でした。認知症は介護する側が与えるばかりのように思うけど、逆に認知症の人から与えてもらうこともある。認知症と関わらない人がいなくなるであろう時代を前に、今、絶対に扱うべきテーマで、撮るべき映画だと思いました」。これまでオリジナル脚本を書いてきた中野監督が、初めてそのこだわりを捨てるほど惚れ込み、自分だったらこうするというイメージがどんどん湧いてきたというこの作品。骨格は残しながらもオリジナル要素をたくさん入れて、今、中野監督が撮らなければならないと思った家族の姿が、ユーモアたっぷりに優しく描かれている。「映画を撮る時は、今、撮るべき映画かどうかということが大事」中野量太監督作品『長いお別れ』8/17?・18?、20?~25?、27?~30?川崎市アートセンターにて上映8/29?トークショー決定https://kac-cinema.jp/9 しんゆり人 NO. 004 2019 AUTUMN