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概要

しんゆり人 NO.002 2019 SPRING

「狂言は、お客様の知性や感性を尊んでこそ成り立つ芸能」(左より)兄の山本則重さんと弟の山本則秀さん。則重さんは今回の公演では、源氏物語を題材に描かれた能の人気曲『葵上』の中で、間狂言(あいきょうげん)を担当する。(右より)狂言師・山本東次郎さん、能楽師・友枝昭世さん、歌人・馬場あき子さん。毎年アルテリッカしんゆりの伝統芸能公演後に行われ好評を博している、貴重なアフタートークの様子。言は皆そうですが、特にこの作品は引き算が大事。余計なものを極限まで削ぎ落とし、『芯』だけで演じなければならない。あれこれ説明を尽くすのではなく、観る人にいろいろなことを感じていただきたい」と語る。03 公演後に、東次郎さんと友枝さん、解説を務める歌人の馬場あき子さんを交えたトークが聴けるのもアルテリッカしんゆりならでは。演者の素顔が垣間見えると好評だ。「狂言は観客の知性や感性を尊んで成り立っている 国内外の舞台に立つ東次郎さんに、忙しい日々の中で息抜きになっていることを尋ねてみると「チョウの採集」という答えが返ってきた。4歳の誕生日から稽古を始め、三世の父から厳しい指導を受ける中、能舞台から見えた美しく自由に舞うアゲハチョウの姿に憧れたのがきっかけだったという。今では全国に「蝶友(ちょうゆう)」がいて、採集の時期になると各地狂言の魅力街との意外なつながり山本家の若手として活躍中狂言師 山本則重さん・則秀さん芸能、それぞれがご自分の想像力を働かせて観ていただきたい。そんな狂言の魅力を知ってもらえる良い機会となっています」と東次郎さん。また、まだ狂言を観たことがない人たちにこそ、ぜひ来場してほしいと話す。「狂言は誰にでも当てはまる人間の愚かさに焦点を当て、それでも人間は良いものだとしている。だから先入観を持たず真っ白な気持ちのまま観て、嫌だな、いいなと感じたことを大切にしてもらいたい。ストーリー以外でも、能や狂言独特の装束、歩き方や謡(うたい)の節などは、初めて観る人にも楽しんでもらえると思います」から連絡が来るのだとか。「子どものころ、新百合ヶ丘周辺にもオオムラサキの幼虫を捕まえに来ていました。エノキの根元にある枯れ葉の下にいた幼虫を持ち帰り、初夏に美しい羽を広げるまで夢中で育てた思い出がありますよ」と、この街との意外なつながりを明かしてくれた。 そして再び舞台の話になると一転、「慢心は一番の敵。初心のまま一生懸命やって、しっかりと良いものを届ければきっと伝わるはず。これからも自分を鍛え続けていきます」と引き締まった表情で語る。狂言の伝統を後世に伝えていくため、心に熱いものをたぎらせる東次郎さん。せりふや腕の上げ下げ一つひとつにも細やかな思いが込められた究極の舞を今年も、アルテリッカしんゆりで目にすることができる。 大蔵流狂言・山本家に生まれ、日本が誇る伝統芸能・狂言を次世代へつなぐため、兄弟で始めた初心者向け公演「則重則秀の会」や、昨年新たに企画した親子向け公演、そして海外公演など、精力的に活動中の二人。また、父・山本則俊さんと新百合ヶ丘で行ってきた「こども狂言教室」は、今年で5年目。アルテリッカしんゆりの公演には、伯父であり師匠である東次郎さんと共に10年間携わってきた。今回の公演については、「目が不自由な座頭が登場する『月見座頭』は難しい曲ですが、伯父の東次郎は当代きっての最高のものを見せてくれます。相手役の父・則俊との兄弟ならではの絶妙な間(ま)もお楽しみください」と見どころを語ってくれた。【プロフィール】山本 東次郎(やまもと とうじろう)1937年5月5日生まれ。山本東次郎家四世。三世東次郎の長男。山本会主宰。芸術祭奨励賞(1964年)、芸術選奨文部大臣賞(1992年)他多数受賞。1998年 紫綬褒章受章。また、2012年 重要無形文化財各個指定(人間国宝)認定。2017年 日本芸術院会員に就任。(一財)杉並能楽堂理事長。S P O T L I G H T9 しんゆり人 NO. 002 2019 SPRING